彼岸の奈良から - 海龍王寺

私はそれからその廃寺の八重葎の茂った境内にはひって往って、みるかげもなく荒れ果てた小さな西金堂(これも天平の遺構だそうだ・・・)の中を、はづれかかった櫺子ごしにのぞいて、そこの天平好みの化粧天井裏を見上げたり、半ば剥落した白壁の上に描きちらされてある村の子供のらしい落書きを一つ一つ見たり、しまひには裏の扉口からそっと堂内に忍びこんで、磚のすき間から生えてゐる葎までも何か大事そうに踏まへて、こんどは反對に櫺子の中から明るい土のうのうへにくつきりと印せられてゐる松の木の影にみいつたりしながら、そう、-もうかれこれ小一時間ばかり、此処でかうやつて過ごしてゐる。女の來るのを待ちあぐねてゐる古の貴公子のやうにわれとわが身を描いたりしながら。(堀 辰雄 - 十月)


尼寺の優雅な風情の漂う法華寺の、同じ集落の裏側にひっそりと建つ海龍王寺。
これも光明皇后の創建だというが、唐から帰国した僧玄昉がここに住んだために開基と伝えられる。

玄昉は嵐に巻き込まれてかろうじて帰国したのだが、
このときに持ち帰った五千余巻の経典の中の海龍王経という経典を嵐の中で唱え続けて九死に一生を得たと。

この功績により僧正に任ぜられ、聖武天皇から海龍王寺の寺号と勅額(現存・重文)を与えられた。

堀辰雄でなくても、ボクらの学生時代のこの古寺は、似たりよったりの荒れ寺であったのだが、
どこかに天平の香りを漂わせて好きな寺であった。

この寺の受難は明治の廃仏毀釈であったらしく、以後の荒廃は上記の如くであったようだが、
ようやく昭和40年代に入って西金堂と経蔵の解体修理が行われ、以降境内の整備や修復が進められている。


綺麗になったとはいえ、そこここにかつての面影も残って、いまも法華寺と一緒に立ち寄ることが多い海龍王寺である。


荒れ寺であった頃のイメージを残す参道脇の土塀に夕日があたる。
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金堂正面。
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風雪の跡も、今では美しい金堂縁側。
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西金堂に安置されている天平の五小重塔(国宝)。化粧垂木の天井も美しい。
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境内の萩。(また、無理やりに。笑)
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Leica M9, Elmarit-M, 28mm/2.8
by kurakame | 2012-09-29 07:25 | M MONO | Comments(8)
Commented by Imaipo at 2012-09-29 07:41 x
お早う御座います
土塀、縁側の雰囲気いや~見入りました
すてきですね。
Commented by twinkle-keko at 2012-09-29 07:44
おはようございます。
秋の奈良、とても風情がありますね。
土塀や縁側が質感たっぷりに表現されていて、とても素敵です。。。
私も10月になったら出かけてみたいと思っています。
Commented by seibo616 at 2012-09-29 07:53
kurakameさん:こんにちは。
素晴らしい古刹の風情に魅入っています。
秋の萩の寺は絵になりますね。
Commented by kurakame at 2012-09-29 15:11
Imaipoさん、こんにちは。
すっかり修復された伽藍と境内ですが、
この縁側のように出来る限り元の部材は残されているようでした。
Commented by kurakame at 2012-09-29 15:13
kekoさん、こんにちは。
先週の連休前に行ってきました。
なかなか満開の萩には出会うことができずに、あちらこちをうろついてきました。
Commented by kurakame at 2012-09-29 15:15
seiboさん、こんにちは。
改めて萩の撮影の難しさを思いましたが、どこも古寺の佇まいを絡めてみました。
Commented by belage at 2012-09-29 17:27 x
壁といい、縁側といい、まさに時空を超えたものがありますね。
ちょっと背筋がぞぞっとしましたよ!
Commented by kurakame at 2012-09-29 20:56
belageさん、こんにちは。
土塀と金堂の縁側の材木だけが、荒廃の当時のこの寺を思い起こさせます。
海龍王寺=荒れ寺というイメージがまだ抜けきれないkurakame老人です。(笑)
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